職場の法律 Q&A 質問編

Q1 私用メールを会社がチェックするのはプライバシーの侵害にあたるか?
Q2 通勤手当の現物支給は労働協約がなくても認められるか?
Q3 社員は一方的に代休をとれるか?
Q4 日勤者の勤務が深夜0時以降に及んだ場合、代休を与える義務はあるか?
Q5 翌月に代休を取らせる場合、当月の賃金算定はどうなるか?

(この質問・回答は労務行政研究所発行「労政時報」より転載させていただいています)
職場の法律Q&A 回答編

Q1 私用メールを会社がチェックするのはプライバシーの侵害にあたるか
社員の1人が勤務時間中、出会い系サイトに頻繁にアクセスするとともに、そこで知り合った複数人の異性とメール交換をしているとの情報が寄せられました。本人に問いただしても否定するばかりで、会社としては確証をつかみかねているところです。 そこで、本人が使用しているパソコンの送受信記録を秘密裡にチェックしてはどうかと考えていますが、プライバシーとの兼ね合いからどうかとの意見もあります。就業規則等には特段の規定はないのですが、法的に問題はないか、また、私用メールへの利用が発覚した場合に懲戒処分は可能かどうかご教示ください。
A1 会社にはチェックする権限はあるが、社会通念を逸脱した監視はプライバシーの侵害に当たる
1.電子メールをチェックしてよいのか
社員が会社のパソコンを私用メールで不適切に使用している疑いが生じた場合、会社はどのようなことができるでしょうか。まず、会社が社員の電子メールをチェックしてよいかが問題となります。チェック、すなわち読むこと自体は、現在の電子メールシステムであれば、技術的には簡単です。法律の条文にはチェックの可否や是否が規定されていませんから、不法行為の損害賠償請求事件や解雇の有効性を争う事件の中で、電子メールをチェックしたことの法的許容性が問われることになります。この点、就業規則や電子メール使用規程に、「会社は利用者の承諾がなくても電子メールを閲読することがあります」などと規定されている場合にのみ、会社がチェックできるとの見解もあります。しかしながら会社には秩序維持権や施設管理権があり、備品をどのように使うかをチェックする権限は会社が本来的に有しているものです。したがって就業規則などによる労働者との合意に基づいて、はじめて取得する権限ではないといえます。このことは、近年の裁判所の判決でも同様に考えられています。日経クイック情報事件とX社事件は、ともに、そのような社内規程がない事案でしたが、裁判所は規程の有無、すなわち権限を特に問題としませんでした。
2.プライバシーはどこまで保護されるのか
会社が電子メールをチェックすることに関して、従業員から、プライバシー権が主張されることがあります。そもそもプライバシー権は憲法13条の人格権の一つとして保障され、「検閲」は憲法21条で禁止されます。しかしながら、憲法で保障されるプライバシー権は、侵害の主体が国家である場合を予定することが原則ですし、「検閲」も行政権が主体となるものに限られます。したがって、会社と労働者という私人間では、プライバシーの保護の程度は弱くなりますし、「検閲」に該当しません。もちろん会社での電子メールについて、プライバシーがまったく保護されないわけではありません。しかしながら、私用メールであるか業務メールであるかは、その内容によって判断されざるを得ず、内容をチェックすることはやむを得ないといえます。この点、タイトルやアドレスで判断するとの考え方もありますが、機密情報漏洩リスクや企業秩序を考えると、内容をチェックすることの必要性を否定できません。一部の労働者には、電子メールのプライバシーが保護されるとの期待または誤解が存在することも事実です。そのため、社内規程に電子メールをチェックすることがある旨を記載するなどして周知することは、その期待または誤解を消すには適当な手段です。上記の裁判例でも、電話や私物管理用ロッカーと比較して、電子メールは性質上プライバシー保護の程度が低いことを説明しています。社内電子メールについて、そもそもその程度の保護しか与えられないことが、その本質上も、規程上も、システム上も合理的であることが広く誤解されるようになれば、チェックすることが違法だという主張自体がすくなくなってくることでしょう。
3.チェックの方法
電子メールをチェックすることの可否、権限論については上記のように考えるとしても、チェックをどのように行うかの方法論は別問題です。むしろ、チェックの必要性および方法の相当性が、今後の実務上の問題となってくることでしょう。上記の裁判例はいずれも不法行為として争われた事案ですが、違法性に関して、チェックの必要性、方法の相当性が問われています。この中で、方法の相当性について、X社事件では、「監視の目的、手段及びその態様を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衝量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となる」と判断されています。具体的には、IT管理者以外がチェックしたような場合、あるいはIT管理者でも専ら個人的な好奇心等からチェックした場合は、不法行為上の違法と評価される余地があります。上司だからといって、当然にチェックできると考えることはあまりに安易です。プライバシーを考えれば、第三者の専門性が求められます。また、チェックの結果を関係のない者にまで漏洩することは、プライバシーの侵害となるでしょう。
4.懲戒の可否
私用メールが多い場合、職務専念義務に反し、懲戒の対象となることは当然です。この点、電子メールは受信してしまうので私用メールが混在することは仕方がない、あるいは一見私用メールでも業務に役立つことがあるとの主張がなされることがあります。たしかに、私用メールがコミュニケーションツールとしてここまで活用される時代に、不必要に堅いことをいうと、業務の妨げになることも事実でしょう。しかしながら、やはり限界はあるはずであり、それは各企業の文化によって規定されるものでしょう。安易にそのような主張にのることなく、あくまでも原則として職務専念義務に反するものであり、業務との関連性を説明するのは労働者であることに留意すべきでしょう。
5.ご質問への解答
ご質問の場合、チェックの可否は、出会い系サイトへのアクセスや異性とのメール交換をしているとの情報の確度にもよります。電子メールをチェックすること自体を会社ができないと考えて躊躇することは、不適当です。疑いに相当の確度があるならば、チェックしてもよいでしょう。プライバシーの点は、チェックを行う体制およびチェック後の情報管理で留意すれば足ります。私用メールの大量または悪質な利用が発覚した場合は職務専念義務違反で懲戒も可能です。しかし、実務的には、懲戒をすることよりも、そのような事例があったことを公表して、プライバシーへの期待または誤解を解き、今後の電子メールの正常な使用を促すことのほうが上手な人事管理といえるでしょう。
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Q2 通勤手当の現物支給は労働協約がなくても認められるか?
A2 労働組合との労働協約がなければ認められない
1. 労基法上の賃金の支払い方法
労基法では、24条において、賃金の支払い方法について、通貨で直接労働者にその全額を支払うことを使用者に義務づけています。 これは、労働者に賃金が確実に支払われることを目的としたものであり、それぞれ の規定には以下のような意味があります。
@「通貨払い」の原則
  この原則は、貨幣経済が浸透している現代社会においては、最も有利な交換手段であ る通貨によって賃金払いを義務づけることにより、価格が不明瞭で換価にも不便な現物 給与を、原則として、禁じるために設けられたものです。
A「直接払い」の原則
  この原則は、親方や職業仲介人が代理受領によって中間搾取をしたり、年少者の賃金を親権者が奪い去るなどの旧来の弊害を除去し、原則として、労働を提供した労働者本人の手に賃金全額が確実に帰属するために設けられたものです。
B「全額払い」の原則
  この原則は、賃金の一部支払いを保留することによる労働者の足止めを防止し、さらに、「直接払い」の原則と同様、税金等公益上の必要があるものを除き、原則として、労働者の労働の対価を全額労働者に帰属させるために設けられた規定です。

2. 通貨払いについて
通貨払いの原則の目的は、1.で説明したとおり、現物給与を禁止することにあります。なお、ここでいう「通貨」とは、日本国内において強制通用力がある貨幣をいい、鋳造貨幣(500円玉、100円玉など)、日本銀行券(1万円札、5000円札など)のことを指します。したがって、日本国内において強制通用力がない、ドル、ポンドなどの国外通貨による支払いは、本条の通貨払いの原則を満たしたことにはなりません。しかしながら、公益上の必要がある場合には、現物給与を一律禁止することは実状に沿わないので、例外も認められています。現在、労基法においては、法令または労働協約に別段の定めがある場合、命令で定める賃金について確実な支払い方法で命令で定める賃金について確実な支払い方法で命令により定めるもの(退職手当の小切手払いなど)について通貨以外での支払いが認められています。 また、賃金について銀行等金融期間の預貯金口座へ振り込み、証券会社の預かり金であって労働省令で定める基準を満たすもの(証券総合口座)への賃金払い込みについても労働基準法施行規則により支払い方法として認められるところです。

3. 通勤定期の給与としての支払いについて
さて、ご質問の場合ですが、まず、通勤手当を定期券で支払うとのことですが、この場合、通勤手当が就業規則等においてどのように規定されているかは定かではありませんが、就業規則等において公共交通機関の定期券代金に相当する金額の手当を支払う旨明記されているような場合には、一般に労基法11条の金額と考えられ(昭25.1.18 基収130号、昭33.2.13 基発90号)、労基法24条の適用を受けることになります。 したがって、定期券相当の金銭に代えて定期券を現物で支払うことは、賃金の通貨払いの例外たる現物給与ということになり、労働協約については、労働組合法にいう労働者の過半数を代表する者との協定は労働協約ではない旨の通達が示されています(昭63.3.14 基発150号)。
 以上ご説明したことからお分かりのように、貴社で検討されている通勤手当を定期券で支払うことについては、現物給与になり、労働協約がなければできないこととされています。

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Q3 社員は一方的に代休をとれるか?
A3 一方的に取ることはできません。
法定休日」に勤務させるには、まず、@「休日労働協定」(36協定)を締結し所轄労働基準監督署長に届け出る。
そして、A当該休日の勤務日の労働時間に対して、通常の3割5分以上の割増賃金の支払いを必要とする。
使用者はこの@とAの要件を満たしていなければならない。
 ところで、休日勤務に対して「代休」を与える企業も少なくはないが、「代休」とは、そもそも「休日出勤させて、その代償として後日、使用者が恩恵的に与える」というものであるから、たとえ「法定休日」に勤務させたとしても代休を与える必要はない。
したがって、社員からこれを請求したり、一方的に取得したりできる性格のものではないのである。
その点で年次有給休暇の請求や取得とは異なるといえる。
 しかしながら、就業規則等に代休を与える旨規定されている場合には、社員から請求することもかのうである。
 例えば、就業規則に「会社が所定の休日に勤務を命じた場合は、当該社員が休日出勤した日の翌日より2週間以内において指定する日を代休とする」といった定めがこれに当たる。
この場合には、社員から指定して代休が請求できる。
なお、「代休」は「休日振替」と違い、事前に日を指定しておく必要はなく、いつ与えてもよいことになっている。
 したがって、この質問については、就業規則等に前述のような定めをしていない限り、社員から一方的に代休を取ることはできないといえる。。
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Q4 日勤者の勤務が深夜0時以降に及んだ場合、代休を与える義務はあるか?
A4 義務はないが、労働者の健康、時短の観点からも奨励されるべきである。
1日の労働時間が8時間を超えると時間外労働となる。
また、それが深夜の時間帯(午後10時から午前5時まで)に及んだときは、深夜の割増賃金を支払わなければならない。
 この場合の「1日」とは、午前0時から午後12時までの暦日をいう。
そこで、質問のように1勤務が深夜0時を超えて2暦日にわたった場合の継続勤務が問題になるが、これについて解釈例規では「……たとえ暦日を異にする場合でも1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の1日の労働とすること」(昭63.1.1 基発1号)としている。
したがって、勤務が深夜0時以降に及んでも前日の労働時間となる。
 質問による「日勤者」の場合であっても、法定労働時間は1日8時間であり、時間外労働が深夜の時間帯に及べば当然深夜労働となる。
法律では、深夜労働について「代休」を与えることまで義務付けてはいない。
 ところが、深夜労働が何日も続いたりすると、労働者の心身の疲労は蓄積され、仕事の能率低下やミスの増加、労災事故の発生などが心配される。
そこで、例えば「深夜勤務が3時間に達したら翌日の午前中は休ませる」という具合に代休を設けることを奨励したい。
時間外労働の実績は残るが、時短促進のうえでも代休を与えることで総実労働時間の短縮を図ることになるのである。
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Q5 翌月に代休を取らせる場合、当月の賃金算定はどうなるか?
A5 「代休日」は同一の給与計算期間内に指定するのが望ましいといえる
そもそも「代休」とは、休日勤務させた後に、その代償として休日を与えることである。
つまり、あらかじめ定めた休日と勤務日とを取り替える「休日振替」とは違い、「代休」の場合は休日労働したという事実は変わらず、それが法定休日であれば必ず割増賃金を支払う義務が生じる。
 したがって、その月内に「代休」を取っていない場合の賃金の支給額は、「通常の賃金×1.35」で計算しなければならない。
例えば、日給1万円の社員が、法定休日に通常の勤務日と同じように勤務したのであれば、1万3500円を支払うことになるのである。
 質問のように「代休」を翌月に取らせる場合であっても、その月の賃金計算では割増賃金分の3500円(1万円×0.35)だけ支払い、休日勤務分の1万円(1万円×1.0)を支払わないのは、その賃金計算期間中の労働の対価の一部が当該期間の賃金支払い日に支払われていないこととなり、「賃金の全額払い」(労基法24条)に違反することになる。
 したがって、こうしたケースではその月に休日勤務手当てとして、いったん1万3500円を支払っておき、翌日の賃金計算でその過払い分1万円(1万円×1.0)を精算(控除)して支払うようにすればよい。
 しかしながら、「代休」を取ったからといってその分の賃金を差し引くのは使用者にとっても違和感があることから、「代休日」は同一の給与計算期間内に指定するのが望ましいといえる。
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